それは、はるか遠いところのお話。
母なる太陽と、3つの惑星を持つグラール太陽系。
謎の生命体SEED襲来の危機を乗り越えたグラールの民に今、新たな脅威が迫っていた。

機密調査部というガーディアンズの陰部に所属するフェイと、そのパートナーとして任務に同行した訓練生のガルバ。
二人が行き着いた任地で見た、悪魔のような原生生物の正体とは。

その影で、何者かが新たな策謀を張り巡らしていることに、ガーディアンズはいまだ気づけずにいた。



第4章「信仰と背信と」




(1)
ガレニガレ地底湖での経験から、数日が経っていた。
ガルバは、新たにコロニーに用意された何もないマイルームで、ただぼんやりとしていた。

手にはしっかりとガーディアンズ機動警護部所属を証明するIDカードとタグが握られている。
それを寝転がりながら眺め始めて、何分過ぎただろうか。
ここ数日、ガルバはそういう日々を過ごしていた。

あの事件後に帰還したフェイとガルバを待っていたのは、どういうことか支部あげての打ち上げパーティだった。
見たこともないビーストの青年が立っており、ガルバに、「お世話になりました」と言ってきた。
わけもわからず立ちすくむガルバに、レオやトニオが、「やったな!」と声をかけてきたりもした。
その時フェイはだいぶ落ち着いていて、色々な人に質問攻めに遭っていたようだった……。

ライアと目が合って、どういうことか確かめようと近づくと、フェイに袖を引っ張られた。
カードを見ろ、とフェイが目で合図したので見てみると、そこにはライアからの長いメールがつづられていた。

その内容を知って愕然とした。
ガルバに礼を述べてきた青年はダミーで、何も知らない支部の連中には、引き取られた人質ということになっている。
二人より先に支部に到着した青年が、お礼に彼の持ち銭でガーディアンズ支部で打ち上げが催された、という運びなのだ。

話を合わせろということだった。
フェイは実にうまくやり抜けていた。こういうのは何度か経験があるのだろう。
だが、ガルバにそんな経験はない。まして、ウソのつけない性格だ。

その場はもう疲れたから、といって早々にダグオラの借家に引き上げてしまった。
モトゥブ支部では夜遅くまで打ち上げが続いたと、後からレオが教えてくれた。

次の日にまた支部に呼び出されたガルバに、マナが任務に行く前にちらつかせたカードを手渡してくれた。
マナはあの任務中に何があったのか知っている。
だから、そのカードを渡す時も微妙な表情をしていた。
そしてこう言った。

「アンタ、これから大変だよ」




(2)
ガーディアンズはその任務の内容によって、いくつかの部署に分かれている。

まず一つは、機動警護部。
場所や内容を問わず、実にオールマイティに仕事をこなさねばならない多忙な部署だ。
一般の人たちから認識されているガーディアンズといえば、大概がこの機動警護部所属の者たちを指す。
それだけ多くの人員が割かれていて、象徴性が極めて高いガーディアンズの花形である。

そしてもう一つ有名なのが、機動警護部と双肩する、ガーディアンズ内での重要な情報を管轄する総合調査部。
機動警護部と違って直接任地に赴いたりすることは稀だが、民間や軍から寄せられる多様な情報を一括にまとめる役割を担う。
彼らの手にかかればグラールのどんな秘密でもわかると嘯かれるほど凄まじい量の情報を保有している部署である。

他にも、この二本柱といってもいい二つの部署から派生した形の部署や課があった。
中でも有名なのは各惑星支部に専属で所属する常駐警護部や、新しい武器や任務に適した装備を研究する装備開発課だ。
これらは専門的な知識が必要なところなので、あまり多くの人員が割かれてはいない。

ガーディアンズは非常に大きな組織である。
巨大な組織である以上硬直的になりがちなのは、ある程度は仕方のないことだ。
だがガーディアンズは、必要に応じて新しい部署が開設されたり合併したりしている。
キャストばかりになってしまった同盟軍に比べればだいぶ柔軟に時代の流れに対応することが出来ていたのだ。

だが、弊害がないわけでもない。
そうやって一時的な対策として作られた無人の部署が、多数存在することになるからだ。
簡単に異動が出来ないような部署ならばなおのこと時代の流れに沿わぬ部署が残る要因となる。

そんな中でも最も暗い過去を持つ、ある部署があった。
その部署の隊員たちは、今のガーディアンズの明るいイメージからは考えられないような任務を遂行していた。
ガーディアンズ以外の組織に対する斥候任務、そういったところが外部に知られないように秘匿している情報の入手及びその暴露。

そしてこれこそがその部署が暗部と呼ばれる原因なのだが、彼らには世界の安全のために不可避とされた人物の抹消任務があった。
人の安全のために人を殺す。それも一人じゃなくて、小規模だったとしても、対象が組織の場合もあった。
理論的にもかなり矛盾している、人類が過去に封印したはずの手段……すなわち暗殺任務である。

そういうスペシャリストだけを集めたその部署は、機密調査部と呼ばれていた。




(3)
突然、ガルバの通信機がなった。
しばらく出ないで、ガルバは手のひらの通信機を見つめる。

緊急の場合や任務の連絡を除いて、普通の連絡事項はルームのビジフォンに送られてくるはずだ。
マリーと名づけた自分専用のパートナーマシナリーが、そう教えてくれていた。

「これ出た方がいいの?マリーちゃん」

突然話を振られたGRM製の精密機械は、質問の意味と意図を高性能なCPUで解析しようと試みているのか、だんまりを決め込んだ。
浮遊する球体のマリーちゃんをペシペシと叩きながら、ガルバは立ち上がって通信機を通話状態にした。

「やあガルバ、起きてるかい」

独特の脅しているような声音が聞こえてきた。
通信相手はライア・マルチネスだ。
ガーディアンズでも古株の彼女だから、こうやって緊急の連絡を他に入れることもしばしばあった。

「ライアさんっすか。何です?新人のガルバ君への初任務ですか?」

うーんと唸って、それからまた一呼吸置いてからライアは応えた。

「悪いけど、これはアタシの個人的な頼み…なんだけどさ。
ガーディアンズの正式な任務じゃないんだけど聞いてくれるかい?」

ガルバは広い部屋の中を歩きながら、鼻をほじる。
なーんだ、任務じゃないのか。声には出さなかったが不満だった。
かといって大先輩の頼みを聞きもしないというのは後に面倒を残しそうでもある。

「どうせ暇ですから」

そうガルバが応えると、ライアはため息をついた。
やる気のなさが伝わったのかもしれない。

「イヤならいいんだけどねぇ。ま、頼みっていうのは、フェイのことなんだけどさ…」

ライアがその続きを喋りだす前にガルバの目の色が変わっていた。
後ろにふわふわとついてきていたマリーを体当たりで弾き飛ばしながら、ガルバは息巻いた。

「先生がどうしたんスか!?」

その声の変わりように、ライアも通信機の向こうで笑った。

「ははっ、そのやる気だよ!!……実はね…」

すぐに笑い声は止まって、深刻な口調になった。
ガルバは、ライアが話すことを真剣に聞き始めた……。




(4)
広めの空間に、同時に混在するはずがない岩や瓦礫、また森林などの風景が広がっていた。
そのあちこちに、これまた生息地が全く違うはずの原生生物がうろついている。

フェイの手元のウォッチは、残り時間1分を切っていることを表示していた。
ガーディアンズがその隊員全てに解放している訓練用の実戦型シミュレーターは、用途に応じて使用方法を変えることが出来た。
この時フェイが設定したのは、時間制限つきの戦闘訓練だった。
ガーディアンズが持つデータの中からランダムで生成されるマップや原生生物に、臨機応変に対応しながら戦うのだ。

ガレニガレの事件の後、フェイは自分の腕が落ちてしまったのではないかと危惧していた。
機動警護部にいたころと比べて、派手に動き回ることが少なくなった現在、フェイは必要最低限の戦闘しかこなさなくなっていた。
ちょっと前なら難なくいけたのにという相手でも、うまく立ち回れないだけで一気に危機に陥ってしまう。
それが前回のミッションでフェイが学んだことだった。
訓練生に助けてもらうなど言語道断だと、あのミッションについては本部からC評価をもらっていた。
逆にガルバは、フェイが減点した分も全部帳消しにして、訓練生の身でありながらAという高評価だったという。

これが悔しくないはずがない。
フェイは一斉に迫り来るニューデイズの原生生物オルアカの群れを蹴散らしながら思った。
残り時間の最後に、親玉の証である派手な飾りのついたオルアカに一気に接近する。
同時に、装着していたレイナードをフォトンアーツモードに切り替えた。
フォトンウェポンは、フォトンアーツと呼ばれる技を使うために、一時的にその性能を引き伸ばすことができた。
武器に負担がかかるため連発は出来ないが、身体能力を極限まで高めた戦士が使えばその攻撃力は凄まじいものが期待できる。

部下があっさり蹴散らされて吠えるしか出来なくなったオルアカのボスに、フェイはフォトンで光り輝くレイナードを突き立てた。
ブレード部分が堅い皮膚を貫き、オルアカが苦痛の唸り声を上げる。
すかさずフォトンアーツの連撃を見舞うために、フェイは突き立てたレイナードのリアクターをオーバードライブさせ、体全体を捻った。
思い切りブレードを引っかけて半回転したフェイが上空を見上げると、体液を噴き出しながらオルアカが宙を舞っていた。
そこに、レイナードを突き上げる形で体の上体を起こし、同時に砲撃を放った。

「はっ!!」

落ちてくるだけのオルアカが真下からのレイナードのブレードと砲撃の連携を回避できるはずもなく、そのまま空中で四散した。
今フェイがやったのが、ガンブレードのフォトンアーツ、ライジングスマッシュの全連携だった。
高速接近からブレードを対象に突き刺し、リアクターをオーバードライブさせて打ち上げた後、追撃で砲撃をあびせるスキルだ。
動きに無駄がなく凄まじい威力を誇るものの、その性質上、一対多数での戦闘には向かないというデメリットもある。

フェイがライジングスマッシュをやり終えたのとシミュレーターの時間切れは同時だった。
シミュレーターのある惑星パルムのガーディアンズ支部に転送されたフェイは、出口にあるタオルを手にとって顔を拭いた。

「おつたれさまー、です!!フェイさん。すごい戦績ですネ」

支部の看板娘、キャストのシーナがそう語りかけてきたが、フェイは何も言わずに支部の出口へと歩き去った。
キャストやシーナが嫌いなわけではなく、支部に思いのほか多くの他のガーディアンズが待機していたからだった。




(5)
情報カードを確認すると、この日の朝に本部から受けた任務の進捗状況が空白のままになっていた。
今度フェイに課された任務は、惑星ニューデイズで噂となっている人身売買の事実確認とその阻止ということだったが、相変わらずそれ以外の情報はなかった。

そして、この日は単独の任務だった。つまり、機密調査部の仕事である。
事実確認というのは恐らくする必要もないだろうとフェイは思った。多分、もう裏は取れているのだ。
となれば、その阻止の方法だ。それに困った上層部が機密調査部に依頼を投げてきた。要するにその時点で胡散臭いのだ。

しかし、とフェイは苦笑した。
グラール教という大層な宗教が蔓延るニューデイズで、背信行為以外の何物でもない人身売買が行われているというのだから。
この矛盾は何故発生してしまったのだろうか、という疑問はすぐに自己解決できた。
道徳に照らし合わせてみて、それがその場所では矛盾だと認識されるからこそ事件となるのだ。
ローグスが仕切っているモトゥブなら、人身売買など日常茶飯事だといつかレオが嘆息していたのをフェイは思い出していた。

支部を出た後は、人通りの多い東地区の真ん中は避けて、フェイはこそ泥のように中央へと向かった。
それに、ここパルムは彼女の生まれ故郷であるだけでなく、生家のあった場所もホルテス・シティに近かった。
あまり会いたくない知り合いもそれだけ多いのだ。同職もかなり多い地区だから、用がないときは一番来たくない場所だった。


ここは惑星パルム、ホルテス・シティ東地区。
歩いていると、人に会わないことはまずない繁華街……。
その中を誰にも見られないようにひっそりと歩く、影のような自分。

ふと視線をずらすと、パルム統一記念の祭典中に出ていた露店の前で、母親の袖を引っ張る少女が見えたような気がした。
ぼさぼさの髪の毛の色は薄く、茶色だったり金色だったりしている。そして、いやだいやだと駄々をこねている。

誰かに呼ばれた気がして後ろを振り向くと、ちょうど異性を意識し始める頃合の女の子が、新品の制服を着て立っている。

似合ってる、お母さん?
ええ、とてもよく似合ってるわ、フェイ。
ほんとに?
ええ、本当よ。

また見る場所を変えると、そこは夕暮れ時で、まるで引きずるように先ほどの制服姿の女の子を連れまわす少年の姿。
何度も脚がもつれて転びそうになる女の子をからかうように笑って、少年はどんどん走っていく。
涙目になって女の子がわめくと、さすがに少年も歩みを緩めた。

バカ、バカ、アルのバカ。死んじゃうかと思った!!
お前が足遅いのが悪いんだろーー!!

下に向けると、キラキラと光るガーディアンズ・タグが落ちている。
それを拾って前を向くと、頭をポリポリかきながら照れ隠しをする、先ほどの少年に似た男。
自分の意識とは無関係に、自分の影がそのタグを手渡す。自分だけが取り残されたように、影が動く。
影の自分はそれを渡しながら、「大事なものなんでしょ?」と涙を浮かべていた。
その影を抱き寄せる男。長い青い髪は後ろで一回結んである。

きっと立派になって迎えに来るよ。

くるりと背を向ける男を、フェイは追わなかった。
自分より少しだけ小さい女の子が、取り残されていてとても寂しそうだった。


フェイはゆっくりと歩き出した。
過去と現在が錯綜するこの街を、思い出がたくさん詰まっているこの星を、やはり忘れることができない。
どんなに辛くても、もう何も残っていなくても、最後には戻ってきてしまう場所だった。




(6)
ガルバはライアに頼まれて、惑星ニューデイズのオウトク・シティに来ていた。
ベクタートラック発着場を出てシティに入ると、ニューデイズの独特の雰囲気がガルバを迎えてくれた。

「ついたかい?乗り物は怖くなかった?」

ライアがバカにしたような口調で通信機越しに話しかけてくる。
どこまで子ども扱いされればいいのだろうかとガルバはだんだん悲しくなってきた。

重力下を飛び回るフライヤーと違って、ベクタートラックはまた違った感覚を搭乗者に与える。
無重力化を超高速で動いても中には何ら影響がないのだが、初めてこれに乗ったときのガルバの反応を周りは覚えていた。
近くにあった積荷を掴んでギャーギャー叫んだ挙句、固定具が外れてコロニーに着くまでずっと浮かんでいたのだ。

そして今も、腕にしっかりと抱っこされたマリーちゃんを見て、まあ仕方ないかとガルバは諦めた。
ベロベロバー、と機械に向けてやっているガルバを、周囲の人間は哀れむような目で見ていた。

「大丈夫ッスよ…。俺そんなにヤワにできてないんで」

強がったガルバを待っていたのは爆笑だった。
それもどうやらライアだけではなく、本部にいる彼女と親しいガーディアンズもだ。

「ププッ、通信機はずっとオンだったんだよ、アンタ」

「うぐぁっ!!」

ガルバは天を仰いだ。マリーちゃんはその際に上空に放り投げられる。
アー、アー、となにやらぶつぶつ言いながら落ちてきたマリーちゃんをそのままナノトランサーに収納した。

ライアたちの笑い声はしばらく止まなかったが、その間にガルバは最初の目的地へと向かった。
目的地であるオウトク支部に到着すると、受付嬢のレイナと装備開発課のマヤが外でガルバを待っていた。

「ウホッ、いい女……。えへへ、こんちわ」

下心全開のガルバの挨拶に、レイナの方はため息を漏らした。
本当にこんなのがガーディアンズなのかと言わんばかりに。

一方のマヤは、ニコニコと笑いながらガルバに挨拶を返してくれた。

「まったくどこ見てるの?いけない子ねぇ。こんにちわ」

「えっへへへ……」

レイナはもう二人の方は見てない。
クールな彼女はスタスタと支部の入り口に歩きながら、言った。

「マヤさん、それにガルバさん……。あまり時間がないので、中へ」

レイナが支部の中に消えていくと、マヤはガルバにウィンクして言った。

「じゃ、続きはまた後でね……ウフフ」

あまりに誘惑めいているマヤの態度に、若いガルバは何かがはじけそうなのを我慢し続けるしかなかった…。

「つ、づき、…だと」

「聞こえてるよガルバ…」

トドメは、もう掛ける言葉もないとでも言いたげなライアのため息だった。

しかし、通信機に漏れた声がライアに筒抜けになっていることも忘れて、ガルバは鼻血を垂らしていた。
男とは常に予想以上のものを妄想してしまっているから性質が悪い……そこを女に利用されていることなど露知らず。




(7)
オウトク支部の中は、名匠たちによる優雅な置物で飾られている。質実剛健のモトゥブ支部とは大違いだった。
また、機能的にも優れていて、座っているだけで任務の疲れが取れてしまいそうな空間に出来上がっていた。

ガルバの煩悩も若干その清涼な空間によって和らいできたようだった。
マヤも先ほどの刺激的な格好ではなく、上着を羽織って真剣そうな表情でレイナと話している。

そして、彼女たちに挟まれる形で、一般人らしき少女が泣きそうな顔をしている。
短めに切りそろえてある髪の毛は真っ黒で、その影から見える白い肌が何とも神秘的なイメージを見るものに持たせる。
大人になればきっと美人になるに違いない、だがまだあどけなさの残る少女だった。
その肩には熱心なグラール教信者にのみ交付される腕章がついており、より一層清楚さが際立つ。

あの少女が今回の依頼者だろうか?
だが、ガルバはライアの個人的な頼みで着ているはずだから、少しだけ混乱した。

「あとはレイナたちに聞きな。じゃ、アンタ切る気がないみたいだから、もうこっちから通信切るよ」

ポケットから断続的に聞こえてきていたライアの声もそれを最後に聞こえなくなった。
ガルバはほっとして胸を撫で下ろす。
実は、ガーディアンズに入隊して間もない彼は、専用の通信機の使い方を知らなかったのだ。

言われたとおりとりあえずレイナたちに話を聞こうとガルバは近寄った。
まるで獣が美女の集団に襲い掛かるような絵だったが、キリっと光るレイナの目だけで獣は縮んでしまった。

あの〜、と取り残されまいとガルバは声を掛ける。
3人のうち、名前の知らない少女がその呼びかけに反応した。

何があったのか、すごく悲しそうな顔をしていた。
口数も元々多い方ではないのだろう、ガルバの方を向いても何も喋らなかった。

先に少女の方がガルバから目をそらすと、ガルバは何故か罪悪感を覚えた。

どうかすると相手を威圧してしまいがちなほどにガルバはでかくて、逆立った銀髪がそれに拍車をかけている。
少年時代から体の大きかったガルバだが、その成長はいまだに止まっていないのだ。

ガルバが目を点にして三人を見ていると、マヤがからかうような口調で少女の代わりに喋りだした。

「ほらガルバ君、あんまりこの子を驚かさないで頂戴?
……紹介が遅れたわね。彼女、名前はサクヤ。このシティの郊外にある小さな孤児院に住んでるの」

「あっ…」

マヤに紹介された少女は、はっとしてガルバの方を見た。
すぐにまた口ごもってしまい、下を向いてもじもじしている。

このサクヤという子、見た感じでは16歳くらいに見えた。
その様子は、がさつなビーストの女ばかり見てきたガルバにとってはとても新鮮であった。

「サクヤちゃん、いいわ。私が言ってあげるから、ね?」

そう言ってうつむいたサクヤをマヤが励ましている。
何がそんなに悲しいのか、ガルバがサクヤと会ってから彼女はずっと沈んでいるのだ。

「もしかして……俺が呼ばれたの、その子のせいですか?」

何かものすごく面倒なことを予想してガルバはそう質問した。
すると、他意はなかったのだが、サクヤがついにむせび泣きを始めてしまう。
それを見たレイナとマヤが、二人してため息をついた。

「女の子が悲しそうにしてるのに、そういう言い方はないんじゃなぁい?」

代理でマヤがガルバを非難する。
そのつもりはなかったガルバだから、物事がどういう方向に流れているのか良く理解していない。

ガルバは空気が読めない性格だった。
だが、なんとなく自分が悪いという空気だけはさすがに彼も理解した。

「えっ……ああいや、ごめんなさいです」

「まあ、その通りなんだけどね。立派なガーディアンズになりたいなら言葉も選ばないとダメよ?」

「すんません…」

ガルバはわけもわからないうちに悪人になっていた。
涙を流して懇願する少女を、大男が面倒臭そうだという理由で一蹴したのだ。
サクヤにとって良い人か悪い人かということになると、圧倒的に悪い人だった。

しかし、その様子を見て、サクヤはしきりに頭を下げだした。
すみませんすみませんと謝る姿は、誰がどう見てもガルバからサクヤへの暴力的な何かを臭わせる。

「ごめんなさい、私が変なお願いをしちゃったから…」

サクヤは泣きながらそう言い、謝り続ける。
ガルバは非常に困った立場に追い込まれてしまった。

サクヤから視線をそらして、ガルバはマヤに助けを求めた。
マヤは相変わらず非難の眼差しを向けていたが、ガルバの困り果てた顔を見てやっと許す気になってくれたようだった。

すっとナノトランサーから紙を取り出した。
それは、とても綺麗な字でつづられた手紙だった。

「ガーディアンズの決まりで、彼女の頼みごとを正式な依頼と認めるわけにはいかないのよ」

その紙をガルバに渡しながら、マヤは言った。

一目でこのサクヤからの手紙だとわかった。
ガルバがまだその手紙を読んでいる途中だったが、サクヤが堰を切ったように喋りだす。

「院長先生が私のせいで殺されちゃうかも知れないんです。最近、私の住んでいる孤児院で奇妙な事件が発生しました…」

長い長い手紙だった。
マヤに宛てられていたサクヤからの手紙は、依頼の内容というよりは親しい友人に助けを請うような内容だった。