それは、はるか遠いところのお話。
母なる太陽と、3つの惑星を持つグラール太陽系。
そこに住むヒューマンと、彼らから作られたキャスト、ビースト、ニューマン。
異なる4つの種族は500年にもわたる戦争の後、互いに共存する道を選んだ。

平和が訪れて100年。
同盟100年の記念式典の最中、突如謎の物体「SEED」が来襲。
しかしグラールの民たちは、民間警護組織ガーディアンズの活躍もあって、協力してこの脅威を退けた。

そして、今。
全ての脅威が去ったはずのグラールに、再び陰謀の影が迫ってきていた…。

ここに、そこまで古くない通信の記録が残されている。
その内容はトップシークレットとして、ガーディアンズ本部に保管されていた。


「誰か……」

「応答……ルウ……聞こ……る」

「この宇宙船は……」

「すでに、SEEDの……食を…け」


ノイズがひどくて、まともに聞き取ることはできない代物だった。
だが、ガーディアンズはこれを非公開処分とした。

公開するわけには、いかなかった。



第1章「汚れたガーディアン」




ガーディアンズコロニーは、民間警護組織ガーディアンズが所有する、完全中立の生活空間である。
ここを拠点にガーディアンズたちは、各惑星に支部を展開し、グラールで起こるあらゆる事件に対応していた。
彼らの活躍もあって、存亡の危機に陥った「SEED襲来」事件もついに決着する。
人々は再び訪れた平和を享受し、その庇護下で生活することができていた。

そんなガーディアンズコロニーの、とある一室。
普段はその部屋は、部屋主がほとんど帰らないために使われることは少ないが、この日は珍しく部屋主が待機していた。

切れ長の目に、金色の長髪。
鍛え上げられた肉体に無駄はなく、女性とは思えないほどに引き締まっていた。

彼女は今、大変珍しくG本部からの依頼の説明を受けていた。
任務の内容を要約すれば、普段ならば単独行動で済ませる程度のものだから、ついでに新人の育成もして欲しいとのことだった。

「……はい、はい。……そーね。…はい」

やる気が起こらないのか、全て生返事で応答する女性。
通信先の依頼者のため息の方が、部屋の中に大きく響いているほどだ。

「…はい。で、何で私?他にも適任がいるでしょう、ライア」

「だーかーらッ、フェイ!!人の話をまじめに聞けっての!!アンタのために言ってんだよあたしゃ!!」

「はいはい。他言いたいことがあったらビジフォンにでもデータ転送しておいてくれる?今疲れてるから誰とも話したくないんだけど」

「アンタが誰かと話したくないのは今に始まったことじゃ……ってちょっとコラ」

プツン。
ライアのホログラムが、部屋から消えると同時に通信は終わった。
やれやれ、とベッドの上に投げてある携帯食料を手にとってかじりつつ、ビジフォンに殴り書きされた情報を読み取る。
仕事の通達なのに、書き方が荒々しくなるのはライアだからではないだろうとフェイは思った。
ビーストとは皆こうあるのだと、半ばそういう気持ちで接してきているからいまさら気にもならない。

内容は把握した。
モトゥブで立て続けに発生しているという誘拐事件の、人質の引き取りらしい。
SEEDの脅威も去ったというのに、治安が一向によくならないのは何故だろうかと普通の人ならば考えるだろう。

だが、フェイは知っていた。
この時はまだ、これらの事件の発端を、うっすらとでも認識してるのは彼女だけであっただろう。
それは彼女が、「機動警護部」というガーディアンズの花形を追われて、「機密調査部」なる無人の部署に放り込まれてしまった理由でもあった。

そのことを、フェイは思い出したくもなかった。
彼女にとっても世界にとっても、決していい事ではない経験だった。

だが、感傷に浸るのはガラではない。
彼女はヒューマンだが、どちらかというとフェイもライアのように粗暴…というか、大雑把なところがあった。
フェイを知っているガーディアンズたちからすれば、それはただ単に自暴自棄になっているだけと解釈されるだろうが。

必要なものをナノトランサーにセットして、部屋を出ようとした。
大食らいではないが、常に何か食べてないと落ち着かないフェイは、手から携帯食料がなくなったのを見て少し悲しくなった。

その手をゆっくりと見つめて、部屋の出口の前で立ち止まる。
封印したはずの記憶が、そういうものに限ってそうなのだが、途端にあふれ出しそうになった。

「…汚れた手は、元には戻らない。私にはもう、誰かを守る権利なんてないのに……。
一番知ってるでしょうに、ライア。次にあったら引っ叩いてやらなくちゃ」

そう、感傷に浸っている場合じゃないのだ。
情報どおりならば、時間は急を要する任務だった。
自分の記憶どうたらで、そのせいで遅れて人質に何かあったら元も子もない。

久々に下された、単独任務以外の仕事だった。
パートナーはすでにモトゥブ支部で待っているらしい。

パートナーなんて言葉はいつぶりだろうか。
どうせ新人教育なんていっておきながら、ライアも知らされていない裏の事情があるのだろう。
そうでないとフェイにこんなフレッシュな話がやってくるはずがない。
自分のように汚れてしまっているか、もしくは、本当に使い道のない新人の思い出作りか。
そのどっちかだろうとフェイは思った。
部屋を出て転送装置に乗ると、一瞬でガーディアンズ本部に到着する。
任務地へ直行する普段とはこの点でも違っていて、フェイは懐かしさすら覚えた。

皆がフェイの姿を見ると、一様に後ろ指を指したり目をそらしたりする。
それをいちいち気にするフェイではない。もうこんなのは慣れっこだった。

それは、本部の看板娘のミーナといえど同じだった。
だが仕事柄、同職のフェイを冷たくあしらうことはミーナにはできない。
たどたどしさが逆に一層フェイの感情を逆撫でしたが、それを注意したところで何とかなる問題でもない。

「あ……ぐ、グラールの未来を守る、ガーディアンズへようこそっ!!」

「ミッションの紹介があるはずなんだけど?」

最低限の言葉だけを口にして、フェイはミーナから目を背けた。
自分とは対照的に、あまりに綺麗過ぎる花を見ているようで、見ているだけで気落ちしてしまうからだった。

「機密……調査部の依頼ですか…?こちらからお伝えすることはないと思うのですが……」

脅しているわけではないのに、妙におどおどしてミーナは答える。
確かに、機動警護部の任務を紹介する事がほとんどの本部受付に、陰部ともいえる機密調査部の任務紹介が下ることはまれだ。
だが、フェイはライアに言われてきているのだ。ないはずがない。イラつきを隠さずにフェイはそのことをぶちまけた。

「いいから、フェイって打ち込んで検索してみてよ。いつまで私に恥をかかせる気?」

言われるとすぐにミーナは行動した。まるで仕事を覚え切れてない新人が、厳しい上司にそそのかされるように。
検索結果を目にして、はっとした表情をするミーナ。
しぐさがいちいち面倒だなとフェイは思いつつ、「ちゃんとあったんでしょ?」とせかすと、こくりとうなずいてミーナはフェイを見た。

「すみません……。で、では、情報を更新しますのでカードの提示をお願いします」

「はいどーぞ。早くね」

カードを受け取ったミーナは、今度は慣れた手つきで処理を済ませる。
ガーディアンズはこうして、受けた仕事内容の確認をするためにデータ処理をするのが決まりになっていた。

返されたカードを器用にナノトランサーに収納しつつ、フェイはミーナに背を向けた。
その様子の一部始終を見ていた他のガーディアンズが目に入ったが、フェイがそちらに振り返ると皆そそくさと道を開けた。

「せ、星霊のご加護がありますように!!」

背後からミーナの決まり文句が、若干遠慮気味に聞こえてきた。
手を振ってそれに応じつつ、フェイは一人その言葉を脳内で反芻させた。

「星霊の加護ね…。そんなのがあるなら、こんなことにもなってなかったわ」

フェイはそう呟いて、本部から歩いて姿を消した。
彼女がいなくなった本部の広いロビーでは、その途端にフェイの噂話がたちはじめた。



パートナーを殺したらしいわ…

マジか?何でそんなのがガーディアンズにいるんだよ?

しかも、任務対象だった救難民も見殺しにして、死刑判決まで受けたらしいぞ?
なんでも今までの功績と引き換えにその話はおじゃんになったそうだが……

いやグラールのためにも殺しとけよそこは。
まったく、人を守る仕事だってのにおっかねーのがいたもんだ……

でも実力は相当らしいわよ…?

だからだよ、危なすぎ……。



モトゥブ行きのPPTスペースポートへ向かってフェイは歩いていた。
この日のコロニーは人でごった返していたため、身を隠しながら歩くのには好都合だった。
隠れながら歩かないといけない職業ではないのだが、フェイにとって目立つのは耐え難い苦であった。

同業者なら、フェイの顔とやったことを知らないものはいない。
顔を見られればすぐに、また汚い仕事かよと声をかけてくる者もいれば、真っ先に距離をとる者もいた。

そのどちらも、フェイはいやだった。
こんな状況を気に入る人間がいるなら探したいくらいではあったが。

スペースポート前の係員に、ガーディアンズであることを証明するタグとカードを見せて、乗車許可をもらう。
その係員ですら、フェイの肩書きに戸惑いを隠せない様子だった。
無論そんなのは気にせず、さっさと目立たない席を確保してベクタートラックに乗り込む。

座った席はたまたま窓際だった。
太陽から注がれる無量の光が、暗闇の宇宙を絶え間なく照らし出す。
その他にも、グラール文明の持つ超技術が、色とりどりの光で、窓から見える景色を決して退屈なものにはしなかった。
レールに沿って加速するベクタートラック内は、摩擦のない空間ゆえに、ワープに近い超スピードを出しても内部が重力で押しつぶされることはない。

これから向かう惑星を一瞥して、フェイは目を閉じた。
惑星モトゥブは、ビーストがその大半を占める資源惑星だ。
苛酷な環境ゆえに、ビーストのそれに比べて体が丈夫でない他の種族が好んで住み着かない星でもあった。
そのため、荒野が続くモトゥブはれっきとした政治団体などが存在しない。
ビーストたちの通商連合と、ローグスと呼ばれる盗賊集団が裏で社会を動かす存在として君臨しているだけだった。
それでもモトゥブが他の惑星と同程度に発展しえたのは、言うまでもなくビースト本来の性格からだろう。
大雑把だが、情に厚い。盗賊集団ローグスも、悪辣非道な一部を除けば、他の惑星では企業とも言ってよい団体が多数であった。

ヒューマンの女性であるフェイも例に漏れず、モトゥブはあまり好きではなかった。仕事だから仕方なく向かうのだ。
ローグスがいるからとか、自分の体が弱いからだとか、フェイがモトゥブ嫌いなのはそんな理由ではない。
ただ単に、空気が悪くて住むには適しないのと、料理が口に合わないからというなんとも一般的な理由だった。

気は完全に滅入っていた。
やはり単独で動いた方が気は楽だし、今の彼女を取り巻く状況を考えると、パートナーを伴って行動するなんて考えられないことだった。

それにフェイも、気が強い方とはいえ、人間のしかも女性だ。
Gコロニー本部での周囲の反応が、全部気になっていないはずはなかった。

「パートナー、しかも新人か……。私のことを知って、ガーディアンズまで嫌いにならなければいいけど」

モトゥブまではすぐつくが、その少しの時間だけでもフェイは脳を休めることを選んだ。
眠りにつく瞬間、思い浮かんだのはこれから会うパートナーのことか、あるいは触れたくない過去のことだったのか……。


その姿は騎士のごとく。
戦う立ち居振る舞いは天を裂く稲妻のごとく。

これから起こることが、後に『稲妻の騎士』と恐れられるガーディアンが生まれる序章であるのを、この時のフェイには知る由もなかった。